免疫と現代人の治りにくい病気——15年の脳卒中後遺症との闘いが教えてくれた「消火器」と「火が出ない家」の違い

はじめに——「治らない」と言われた妻

15年前、妻は42歳の時、住んでいた北米オハイオ州フィンドレイの自宅で倒れた。
右側の手も足も動かせない、そう訴えた家内に何が起こっているのか、その時は全く理解できなかった。
慌てて車で街一番の病院に運んだが、重症すぎてここでは何も出来ないと言われた。
重度の脳出血だった。
トレドという大きな街にある、全米トップ100と言われるセントヴィンセント病院に運ばれた。
到着時はすでに意識がなかった。
4日の昏睡状態を経て、妻は奇跡的に目を覚ました。
右半身麻痺、重度の失語症、視野欠損を抱えた生還だった。
動脈硬化も皆無、もやもや病も疑われて検査したが違った。
原因はわからなかった。

一命は取り留めたものの、右半身の麻痺と、半年後からは、想像を絶する全身痛が襲った。
「脳卒中後頭痛」という名前がついているが、名前がついたところで、痛みが消えるわけではない。

毎日、頭を抱えて苦しむ姿を見続けた。

大阪大学病院では、脊髄刺激療法(SCS:Spinal Cord Stimulation)を受けた。脊髄に電極を埋め込み、電気刺激で痛みの信号を遮断する最先端の治療だと説明された。結果は、効果なし。

横浜市立大学病院のペインクリニックでは、担当医から静かに告げられた。

「これは、治りません」

ドクターショッピングの果てに

医師に「治らない」と言われても、諦められるわけがない。

日本中の治療家を探し回った。漢方、整体、鍼灸、気功、YNSA(山元式新頭針療法)、酸素カプセル——。

正直に言えば、「怪しいやつ」も含めて、藁をもすがる思いで試した。

何度も希望を失いかけた。

「もうダメかもしれない」と思った夜は、数えきれない。

そんな中、突然YouTubeに現れた動画があった。水戸で色彩療法を行う、あくざわ鍼灸院の阿久澤先生だ。

「症状の奥にある本質を診る」

阿久澤先生の治療哲学は、それまで受けてきたものとまったく違った。

「患部を追わず、本質を診る。全体が整えば、痛みは自ずと消えていく」

痛い場所を直接治療するのではなく、身体全体のバランスを整える。部分は全体の反映であり、全体が調和すれば、部分の問題は自然に解消される——。

通い始めて1年。

少しずつ、超多層に重なる問題のレイヤーが剥がされていった。

15年間、積み重なってきた問題は一枚岩ではなかった。何層にもわたる複雑な構造になっていて、それを一枚一枚、丁寧に剥がしていく必要があった。

神山道元先生との出会い

阿久澤先生が師と仰ぐのが、神山道元先生だ。

上海生まれ。父は鄧小平の国医・屠伯言。龍門派19代伝人として、12歳から治療に携わり、53年の臨床経験を持つ伝統中医学の権威だ。

神山先生には薬酒を処方していただいた。

そして——

15年間、ぴくりとも動かなかった妻の右手の指が、動き始めた。

西洋医学では「治らない」と言われた症状に、変化が起きた。

この体験が、私に根本的な問いを投げかけた。

「治らない」とは、本当なのか?

西洋薬は「消火器」——否定すべきものではない

誤解のないように言っておきたい。

私は西洋医学を否定しない。むしろ、命を救われた。

脳卒中で倒れた瞬間、救急車で運ばれ、適切な処置を受けたから、妻は今も生きている。西洋医学がなければ、15年間の闘いすらできなかった。

神山先生の教えの中で、私が最も腑に落ちた言葉がある。

「西洋薬は消火器である。火を消す。それは素晴らしいことだ」

消火器がなければ、火事で家は焼け落ちる。命を失う。だから消火器は必要だ。

しかし、消火器だけでは「火が出ない家」は作れない。

薬は基本的に体を酸性方向に導く。長期服用すれば副作用が生まれる。その副作用を抑えるために、また薬が増える。この悪循環を断つには、「火が出ない家」を建て直す視点が必要になる。

つまり——

  • 西洋薬 = 消火器。火を消す。素晴らしい。否定しない。
  • 中医学 = 火が出ない家を作る。再発しない体を作る。
  • 両方必要。消火器で火を消しながら、同時に家を建て直す。

この両輪の視点を持てたとき、15年間の苦しみに、ようやく意味が見えてきた。

「薬漬け」で下がっていく免疫

現代人は、知らず知らずのうちに「薬漬け」になっている。

風邪を引けば風邪薬。熱が出れば解熱剤。痛みがあれば鎮痛剤。眠れなければ睡眠薬。

すべて「消火器」だ。火を消す。症状を抑える。

だが、火を消し続けるうちに、家そのものが傷んでいく。

免疫力が下がっていく。

神山先生によれば、薬の長期服用は体を酸性に傾け、五臓のバランスを崩す。特に肝臓と腎臓への負担は大きい。

  • 肝臓 — 解毒を担う。薬を処理するたびに消耗する
  • 腎臓 — 生命力の源。「腎虚」は老化と免疫低下の根本原因

市販薬で一時的に症状が消えても、根本原因は残ったまま。むしろ、体のバランスを崩す方向に作用している可能性がある。

「どうして良いのかわからない」

そう感じている人は、多いのではないだろうか。

「花粉症は治らない」という思い込み

花粉症を例に考えてみよう。

毎年春になると鼻水が止まらない。目がかゆい。くしゃみが止まらない。

病院に行けば、抗ヒスタミン薬が処方される。症状は抑えられる。だが、翌年もまた同じことの繰り返し。

「花粉症は体質だから、治らない」

多くの人がそう思い込んでいる。思わされている、と言った方が正確かもしれない。

だが、中医学の視点では違う。

神山先生によれば、花粉症は「肺」と「脾」の問題であることが多い。

  • — 皮膚や粘膜を司る。肺が弱ると外邪(花粉)に負ける
  • — 消化器系を司る。脾が弱ると痰湿(体内の余分な水分)が溜まる

肺と脾を強化し、体内の痰湿を取り除けば、花粉に過剰反応しない体になる——。

「治らない」のではなく、「消火器だけ使い続けて、家を建て直していない」から毎年同じことが起きる。

これは花粉症だけの話ではない。

五虚——免疫低下の5つの根本原因

中医学には「五虚」という概念がある。

虚のタイプ不足しているもの主な症状
気虚エネルギー疲れやすい、息切れ、風邪を引きやすい
血虚血液の質と量顔色が悪い、めまい、手足のしびれ
陰虚潤いのぼせ、ほてり、寝汗、口の渇き
陽虚温める力冷え性、下痢しやすい、むくみ
精虚生命力の根源老化、不妊、骨が弱い

現代人の多くは、複数の「虚」を抱えている。

私の妻の場合、脳卒中後の15年間で、ほぼすべての虚が重なっていた。薬漬けの生活で気虚と血虚が進み、動けないことで陽虚が進み、それらが複雑に絡み合って回復を阻んでいた。

免疫力とは、この「虚」がない状態のことだ。

今日からできる「家を建て直す」養生法

神山先生の講義から学んだ、今日から始められる養生法をいくつか紹介したい。

1. 豆療法——五臓を整える

五色の豆が五臓を養う。

  • 黒豆 → 腎臓(生命力の源)
  • 小豆 → 心臓(血液循環)
  • 緑豆 → 肝臓(解毒)
  • 白豆 → 肺(免疫の最前線)
  • 大豆 → 脾臓(消化吸収)

毎日の食事に、意識して取り入れてみてほしい。

2. 玉ねぎの酢漬け

玉ねぎを酢に漬けるだけ。

  • 肝臓を浄化する
  • シミが改善する
  • 便秘が解消される

肝臓は「将軍の臓器」と呼ばれ、全身の気血の流れを司る。肝臓が健康になれば、免疫力も上がる。

3. 5-2-7呼吸法

神山先生直伝の呼吸法。

  1. 吸う — 5秒かけて、横隔膜を上げながら
  2. 止める — 2秒
  3. 吐く — 7秒かけて、膝裏まで意識を下ろしながら

季節の節目(立春、立夏、立秋、立冬)に重点的に練習すると、3ヶ月分の効果があるという。

4. 16時間断食

現代人は食べすぎている。

16時間の空腹時間を作ることで、オートファジー(細胞の自己浄化機能)が活性化する。免疫細胞も若返る。

夜8時に夕食を終えたら、翌日の正午まで固形物を摂らない。これだけでいい。

免疫マップ——心理的な「免疫」と肉体的な「免疫」

ここまで肉体的な免疫について書いてきた。

だが、私はもうひとつの「免疫」について、長年考えてきた。

心理的な免疫——変化への抵抗だ。

私が開発している「免疫マップ」は、人が変化を拒む心理的なパターンを7つのタイプに分類したものだ。

  • 守護者(DEFENDER) — 失敗を恐れ、安全を求める
  • 探索者(EXPLORER) — 自由を求め、強制を嫌う
  • 闘士(FIGHTER) — 競争を求め、協調を嫌う
  • 絆師(GUILD) — つながりを求め、孤立を嫌う
  • 刻師(ACHIEVER) — 経験の否定を嫌う
  • 独歩者(RANGER) — 自発性を重視し、催促を嫌う
  • 総帥(COMMANDER) — 自己決定を重視し、強制を嫌う

これらは「弱さ」ではない。

変化を異物として排除する、生きるための知恵だ。

肉体が病原菌を排除するように、心も「変化」という異物を排除しようとする。それは防衛本能であり、悪いことではない。

だが、過剰防衛は問題だ。

肉体の免疫が暴走すると自己免疫疾患になるように、心理的な免疫が暴走すると、必要な変化さえも拒絶してしまう。

肉体の免疫と心理の免疫は、つながっている

神山先生の中医学と、私の免疫マップは、実は深くつながっている。

中医学では「肝」は怒りと関係し、「腎」は恐れと関係する。五臓と感情は密接にリンクしている。

  • 肝が病むと → 怒りっぽくなる、イライラする
  • 腎が病むと → 恐怖心が強くなる、不安になる
  • 心が病むと → 喜びを感じられなくなる
  • 脾が病むと → 思い悩む、くよくよする
  • 肺が病むと → 悲しみに囚われる

心理的な免疫(変化への抵抗)は、肉体の臓器の状態と無関係ではない。

腎が弱っている人は、恐怖心から新しいことに挑戦できない。肝が弱っている人は、イライラして学習が続かない。

心と体は分離できない。

だから、製造業の50代に「学べ」と言っても、体が整っていなければ学べない。免疫マップで心理的な抵抗を可視化しても、肉体の五虚が放置されていれば、行動変容は起きない。

「乗り越えられない試練はない」

15年間、妻の脳卒中後遺症と闘ってきた。何度も絶望した。何度も「もうダメだ」と思った。

でも、諦めなかった。

日本中の治療家を訪ね歩き、怪しいものも含めて試し続けた。そして、阿久澤先生と神山先生に出会った。

15年動かなかった右手の指が、動き始めた。

「治らない」は、嘘だった。

いや、正確に言えば、「消火器だけ使い続けていたら治らない」が正しかった。消火器で火を消しながら、同時に火が出ない家を建て直す——その両輪が必要だったのだ。

おわりに——あなたの「治らない」は本当か

この記事を読んでいるあなたは、何かしらの「治らない」を抱えているかもしれない。

慢性的な頭痛。腰痛。アレルギー。自律神経の乱れ。原因不明の疲労感。

病院では「異常なし」と言われる。薬で一時的に症状は消える。でも、また戻ってくる。

それは、消火器だけ使い続けているからかもしれない。

火を消すことは大切だ。でも、火が出ない家を建て直すことも、同じくらい大切だ。

西洋医学を否定する必要はない。中医学だけが正しいわけでもない。

両方を使う。消火器と建築。両方を使って、自分の体を守る。


あなたの「治らない」は、本当に治らないのか。

もしかしたら、まだ試していない道があるのかもしれない。

諦めないでほしい。

乗り越えられない試練は、ない。


倉持智明
ヨウム株式会社 代表取締役


参考情報

  • あくざわ鍼灸院(水戸市)— 色彩療法を取り入れた全体調整の治療
  • 神山道元先生 — 龍門派19代伝人、53年の臨床経験を持つ伝統中医学の権威
  • 免疫マップ診断 — 心理的な変化への抵抗を7タイプに分類

※本記事は個人の体験に基づくものであり、医療行為・診断ではありません。症状がある場合は、まず医療機関を受診してください。

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倉持智明

ヨウム株式会社代表取締役

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