2026年2月、世界が震えた日
2026年2月3日、世界中のSaaS企業の株価が一斉に急落した。
Sansan ▲17%、freee ▲14%、ラクス ▲13.5%──日本の「勝ち組」と呼ばれていた銘柄が軒並み二ケタの下落を記録した。世界全体では、わずか数週間で約1兆ドル(約150兆円)の時価総額が消失したという。
きっかけは、AnthropicのAIエージェント「Claude Cowork」の発表だった。
これを受けて市場が考えたのは、こういうことだ。
「AIが勝手に複数のSaaSをまたいで仕事を完結させるようになったら、企業はわざわざ多くのSaaSアカウントを契約する必要がなくなるのではないか?」
この現象は「アンソロピック・ショック」「SaaSpocalypse(SaaS黙示録)」などと呼ばれ、ソフトウェア業界の歴史的転換点として語られるようになった。
「SaaSの死」の正体
さて、本当にSaaSは死ぬのだろうか。
結論から言えば、SaaS全体が死ぬわけではない。
死ぬのは、「単機能×シート課金」という従来型のビジネスモデルだ。
大和総研の田邉美穂氏は2026年3月のレポートでこう述べている。操作の主体が人間からAIに移ることで、UI/UXよりもAPI設計や外部連携、可監査性といった基盤面が差別化の焦点になる、と。
つまり、「どれだけ使いやすいか(UI)」から「AIがAPIで使えるか(API設計)」へ──価値の源泉が移動しているのだ。
新しい風景──SaaSの「良いとこどり」+AIカスタマイズ
ここで視点を変えてみたい。
この変化は、むしろ私たち「使う側」にとってのチャンスではないだろうか。
従来、企業が業務システムを構築しようとすると、選択肢は大きく二つだった。
- パッケージSaaSをそのまま使う──導入は早いが、自社の業務フローに合わない部分は我慢するしかない
- フルスクラッチで開発する──自社に最適化できるが、時間もコストも膨大
どちらも一長一短だった。
だが今、第三の道が現実のものになりつつある。
第三の道──「SaaSの良いところ」+「AIで自作する部分」
それは、こういうアプローチだ。
SaaSの「良いところ」はそのまま使う。足りない部分、自社独自の機能は、ClaudeなどのAIとAPIを使って自分たちで作る。
たとえば、会計システムはfreeeを使う。顧客管理はSalesforceを使う。でも、「自社独自の見積もりロジック」や「業界特有の帳票フォーマット」は、Claude APIを使って自社専用のアプリケーションとして作る。
そして、それらをAPIで連携させる。
これが、2026年以降の「オンリーワンアプリケーション」の姿だ。
なぜ今、これが可能になったのか
理由は三つある。
1. AIの開発コストが劇的に下がった
OpenAIのo3モデルは、わずか2ヶ月で価格が80%下落したという。AIを使った開発のコストが、中小企業でも手が届く範囲に入ってきた。
2. API連携が標準装備になった
MCP(Model Context Protocol)のような新しい標準規格が登場し、AIと業務システムを接続するハードルが大幅に下がった。従来なら数週間から数ヶ月かかっていた統合開発が、数時間から数日で可能になっている。
3. 「作る」から「指示する」へ
Claude Codeのようなツールを使えば、プログラミングの専門知識がなくても、自然言語で指示するだけでアプリケーションを作れるようになった。これは、開発の民主化と言っていい。
企業の仕組みだけじゃない──人材教育・マニュアル作成もこの波に乗る
ここで、私が日々関わっている「人材教育」「マニュアル作成」の世界にも目を向けたい。
実は、この領域こそ「SaaS+AI自作」のアプローチが最も活きる場所だと考えている。
なぜか。
教育やマニュアルは、本質的に「自社独自」の要素が強い。同じ製造業でも、会社ごとに設備が違う。同じ営業職でも、扱う商品が違う。汎用のeラーニングパッケージでは、どうしても「帯に短し襷に長し」になりがちだ。
でも、ゼロから教材を作るのは大変すぎる。
ここで「SaaS+AI自作」のアプローチが効いてくる。
具体的なイメージ
たとえば、こんな組み合わせが考えられる。
LMS(学習管理システム)はCanvas LMSを使う。
- 学習者の進捗管理
- コース設計のフレームワーク
- レポート・分析機能
これらは、世界中で磨かれてきたSaaSの「良いところ」だ。そのまま使えばいい。
自社独自の教材は、Claudeで作る。
- 自社の作業手順書をアップロードして、マイクロラーニング教材に変換する
- ベテラン社員のインタビュー動画から、ナレッジを抽出してクイズ形式にする
- 新しい設備が入ったら、マニュアルをClaudeに読み込ませて、すぐに教育コンテンツを生成する
両者をAPIで連携させる。
- Claudeで生成した教材を、自動的にCanvas LMSのコースに登録する
- 学習者の理解度に応じて、次に出す教材をAIが選択する
これが、私が「第三の道」と呼んでいるものの具体例だ。
製造業の現場で、何が起きているか
日本の製造業では今、深刻な問題が起きている。
60%以上の現場作業者が50歳を超えている。
彼らの頭の中にある「暗黙知」──図面には書かれていない勘所、手順書には載っていないコツ──これが、次世代に引き継がれないまま失われようとしている。
従来のやり方では、間に合わない。
だからこそ、AIの力を借りて、ベテランの知恵を「形式知」に変換し、若手が学べる形にすることが急務なのだ。
そしてその仕組みは、汎用のパッケージでは作れない。なぜなら、「暗黙知」は会社ごと、現場ごとに違うからだ。
だから、「SaaS+AI自作」なのだ。
「免疫」という視点
ここで少し、違う角度から話をしたい。
新しい技術やツールを導入しようとすると、必ず「抵抗」が起きる。
これは悪いことではない。人間には、変化に対する「免疫反応」がある。それは、自分を守るための自然な反応だ。
問題は、その抵抗を「性格のせい」「やる気のせい」にしてしまうことだ。
そうではなく、抵抗には「型」がある。その型を理解し、適切な対処をすれば、人は変われる。
私はこれを「免疫マップ」と呼んでいる。
SaaS+AI自作の時代に移行するためにも、この「免疫」への理解が不可欠だと考えている。技術だけでは、変革は起きない。人の心の動きを理解して初めて、新しい仕組みが組織に根付く。
時代が来た
「SaaSショック」は、終わりの始まりではない。
新しい時代の始まりだ。
- SaaSの良いところは、ありがたく使わせてもらう
- 足りないところは、AIの力を借りて自分たちで作る
- そして、APIで繋いで、自社だけの「オンリーワン」を作る
企業の仕組みも、人材教育も、マニュアル作成も──すべてがこの流れに乗っていく。
その時代が、今、来た。
最後に
私は30年以上、製造業の現場を見てきた。ヨーロッパで工場を立ち上げ、北米で事業を動かし、今は日本の中小企業の変革を支援している。
その中で確信していることがある。
乗り越えられない試練はない。
ただし、やり方は変わる。昨日までのやり方が、明日も通用するとは限らない。
今、SaaS+API+AIという新しいツールが手に入った。
あとは、それを使いこなす「人」の問題だ。
そして、「人」の問題は、「免疫」の問題であり、「学び」の問題だ。
だから私は、この分野に全力を注いでいる。
一緒に、新しい時代を作りませんか。



