東洋医学の世界には「気が見える」という表現がある。気とは何か。科学的に証明されたものではない。しかし、長年の臨床を重ねた治療者たちが、確かにそこにあると語る「何か」。私はこの一ヶ月、家内の闘病を通じて、それを「信じる」のではなく「体験する」機会を得た。
現代医学の行き止まりで
家内は脳卒中後疼痛を抱えている。脳卒中そのものが残した後遺症ではなく、脳が作り出す痛みだ。中枢性疼痛とも呼ばれるこの症状は、現代医学でも「難治性」とされ、確立された治療法が少ない。病院の先生からは「うまく付き合っていくしかない」という、あの言葉をいただいた。
薬は飲んでいる。血圧を安定させるための処方も続いている。しかし、痛みの根本にアプローチする手立てが見つからない——。そんな時、伝統中医学の治療者である神山道元先生と出会った。
神山道元先生の薬酒
神山道元先生は、上海出身の伝統中医学の実践者だ。龍門派19代伝人として、12歳から治療を始め、53年の臨床経験を持つ。父上は鄧小平の国医を務めた屠伯言氏。池袋に研究所を構え、現代医学では手の届かない領域で、多くの患者と向き合い続けている。
神山先生は家内の状態を診て、薬酒を処方してくださった。中医学では、脳卒中後の疼痛を「瘀血」——血のよどみ——と捉え、経絡を温めて通す治療を行う。薬酒のアルコールは生薬の薬効成分の吸収を高め、血行促進を助ける。理にかなった処方だった。
しかし、飲み始めて数週間、目に見える変化はなかった。
痛みは相変わらず続いている。薬酒を飲むという行為が正しいのか、効果があるのか。家族として、不安にならないはずがない。
* * *
別の先生が見た「変化」
薬酒の効果がまだ見えない時期に、別件であくざわ鍼灸院を訪れた。阿久沢先生は家内の治療にも長く関わってくださっている鍼灸師だ。
その日、阿久沢先生は家内に触れた後、こうおっしゃった。
「神経のエネルギーがいつもより強く感じます。良い傾向ですね。」
── あくざわ鍼灸院 阿久沢先生
薬酒のことは伝えていなかった。阿久沢先生は、ご自身の手を通じて感じた「気」の変化だけを根拠に、そう判断された。目に見えない領域で、何かが確かに動いている——。不安の中にいた私にとって、この一言がどれほどの支えになったか。
一ヶ月後、指が動いた
薬酒を飲み始めておよそ一ヶ月後のことだった。
家内の指が、動いた。
大きな動きではない。劇的な回復と言えるかどうかもわからない。しかし、それまで動かなかったものが動いたのだ。本人が一番驚いていた。
この一ヶ月の経過
- 薬酒処方 ── 神山道元先生が家内の状態を診て、脳卒中後疼痛に対する薬酒を処方。飲用を開始。
- 数週間後(不安の時期) ── 目に見える変化はなく、効果への不安が募る日々。痛みは続いている。
- あくざわ鍼灸院にて ── 別件で訪れた阿久沢先生が「神経のエネルギーがいつもより強い。良い傾向だ」と。薬酒のことは伝えていなかった。
- 約1ヶ月後 ── 指が動いた ── それまで動かなかった指に動きが現れる。小さな、しかし確かな変化。
「気が見える」とはどういうことか
阿久沢先生も、神山先生も、「気が見える」とおっしゃる。私は科学者ではないし、気の存在を証明する術を持たない。しかし、今回の経験を通じて、一つだけ確信したことがある。
それは、現代の検査機器がまだ捉えられない変化を、長年の臨床経験を重ねた治療者の手は感じ取れる——という事実だ。数値やデータに表れる前に、身体の中で起きている変化がある。阿久沢先生はそれを「神経のエネルギー」という言葉で表現された。
神山先生の講演録の中に、こういう考え方がある。西洋医学は「消火器」であり、中医学は「火が出ない家を作る」こと。消火器は素晴らしい。火を消してくれる。命を救ってくれる。否定するつもりはまったくない。しかし同時に、再び火が出ない家——再発しない身体——を作ることも必要なのだ。
両方が必要だということ。そして、その「家を作る」過程では、数値に表れる前の微細な変化を読み取れる力が、極めて重要になるということ。今回の体験で、それを肌で理解した。
「乗り越えられない試練はない」
私たちヨウム株式会社は「失敗のダメージをコントロールする」ことを経営哲学の根幹に置いている。これは製造業のコンサルティングでも、家族の闘病でも、変わらない。完全にリスクをゼロにすることはできない。しかし、ダメージを最小化し、回復への道筋を設計することはできる。
家内の指が動いたことは、まだ長い道のりの一歩に過ぎない。しかし、「気」が見える二人の先生が、それぞれの専門領域から同じ方向を指し示してくださっている。その事実が、家族としての私に、経営者としての私に、大きな勇気を与えてくれている。
乗り越えられない試練はない。これはこのブログの信念でもある。
🌿 養生問答 ── 伝統中医学AIヘルスケア
神山道元先生の全12回講演録をもとにしたAI健康相談アプリを開発中です。「医師に行き詰まった時のもう一つの道」を、いつでも手元で相談できる仕組みを目指しています。
薬の中断を勧めたり、医師の処方を否定するものではありません。
目の前の辛い問題を現代医学で沈め、原因不明に感じられる根本的な問題を長い目で改善することが目的です。
検査で問題がないのに頭痛が続いたり、原因はメンタルですと言われたり、一生花粉症と付き合うのが苦痛だったりと、現代人が抱える苦痛への一つの処方箋と考えています。
神山道元先生について
1961年上海生まれ。龍門派19代伝人。12歳から治療を開始し、53年の臨床経験を持つ。父上は鄧小平等の国医を務めた屠伯言氏。池袋に「神山伝統文化医学研究所」を構え、伝統中医学に基づく治療活動を行う。全12回の講演シリーズ(3年間)を実施。その講演録は阿久澤尊行先生の著、神山道元先生の監修により書籍化されている。
参考文献
『失われし伝統中医学技術体系』 阿久澤尊行 著 / 神山道元 監修 神山道元先生の全12回講演録をもとに、伝統中医学の診断法・治療法・養生法を体系的にまとめた一冊。
倉持智明(Patchingworker) ヨウム株式会社 代表取締役。製造業30年、欧州・北米15年の現場経験を経て、中小製造業のDXと人材育成に取り組む。東洋医学を通じた健康経営にも関心が深く、神山道元先生の講演をもとにした「養生問答」アプリを開発中。
⚕️ 本記事は個人的な体験に基づく記録であり、医療行為・診断を目的としたものではありません。東洋医学的アプローチは現代医学を否定するものではなく、補完・併用の立場で記述しています。具体的な治療に関しては、必ず専門の医師・治療者にご相談ください。



