大学のLMSが停止したとき、授業継続の計画はあるか
大学のLMSが停止したとき、その日の授業をどう続けるか。2026年春、Canvas LMS がランサムウェア攻撃を受けてサービスが停止した一件は、この問いを世界中の大学に突きつけました。EDUCAUSE が5月に開いた議論の場には、300名を超える関係者が集まっています。
そこで取られたアンケートの結果は、かなり率直なものでした。EDUCAUSE Review の報告によれば、インシデント発生時点で教育系システムの大規模停止に備えた計画を持っていたと答えたのは35%。持っていなかったが44%、わからないが20%でした。
つまり、過半数の機関には計画がなかったか、計画の有無すら把握できていなかったことになります。これは特定の大学の怠慢というより、業界全体が同じ前提の上に立っていたことの表れでしょう。
コロナ期に整えた計画では埋まらない空白
その前提とは何か。報告はこう指摘しています。多くの大学はコロナ禍を経て継続計画を整えたが、それらは「授業をオンラインへ移す」ための計画だった、と。デジタルは障害の解決策であって、障害の発生源ではない ― 暗黙にそう想定されていたわけです。
日本の大学も事情はそれほど変わりません。BCPは地震・台風・感染症を想定して書かれ、そこでの連絡手段や代替手段はたいていLMSやポータルです。各大学が出しているLMS停止のお知らせは、事前にわかっている計画停止への案内であって、予期しない停止を想定したものではありません。
では備えればよいのか、というと話は単純ではない。同じ調査で、LMSのバックアップ手段を検討していると答えたのは19%、検討していないが81%。理由として最も多く挙がったのはコストでした。国内でもLMSの再選定が動き始めていますが、この論点まで含めて検討している例はまだ多くないように見えます。
「バックアップLMS」ではなく、その日の授業に絞るという考え方
ここには構造的なジレンマがあります。予備のLMSをもう一式維持すれば、たしかに強くはなる。しかし多くの大学は、複雑なシステムを学内で抱え込む負担を減らすためにSaaSへ移ってきました。二重化は、その判断を自ら打ち消すことになります。
報告の中で示唆的だったのは、実際に役立ったものの具体例です。ある大学では日次のデータスナップショットが、別の大学では学修分析ツールが、名簿や公開済みの成績へのアクセス手段になった。ただし同時に、釘も刺されています。名簿や成績が見えることは、未公開の成績や学生の提出物、すべての教材にアクセスできることを意味しない、と。WCET の論考も、同じ方向から「何を守るか」の線引きを求めています。
できることとできないことを、最初から線引きしておく。その設計は現実的だと思います。Canvas LMS 向けに私たちが用意している youmu perch. シリーズの perchglide. も、同じ考え方に立っています。前夜のうちに当日分の教材を学内に用意しておき、接続できない日は担当教員が自分で取り出す。扱うのはその回のページ、配布ファイル、当日締切の課題の説明、直近のお知らせ、シラバスまで。課題の提出も成績も小テストの設問も扱いません。「落ちない」ではなく「落ちても着陸できる」だけに、役割を絞っています。
まとめ
大学のLMS停止への備えは、可用性を100%に近づける競争ではありません。停止する確率を下げるのは提供側の仕事で、大学の側に残るのは「止まった日の90分をどう成立させるか」という、別の問いです。
完璧な二重化を目指すと、コストと運用負荷で足が止まる。むしろ範囲を絞り、何を守り何を諦めるかを平時に決めておくほうが、実際の授業継続につながるのではないでしょうか。まず自学の継続計画が、35%の側にあるのか44%の側にあるのかを確かめるところからでしょう。
参考文献
- Technology Disruption: Rethinking Instructional Continuity(EDUCAUSE Review, 2026年6月) — 計画保有35%/未保有44%、バックアップ検討19%の出典
- When the LMS Goes Dark: Rethinking Contingency Planning in Higher Ed(WCET, 2026年8月) — 停止時の代替計画をめぐる論考
- Preparing for Learning Management System Disruptions(University of Illinois Chicago) — 教員向けの停止時準備ガイドの例
- 授業支援システム(LMS)停止のお知らせ(横浜国立大学 情報基盤センター) — 計画停止の告知例



