学修データのダッシュボードは誰のため ― 学生に返す可視化という視点

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学修データのダッシュボードを整えたものの、実際に開いているのは IR 担当と一部の執行部だけ――そんな声を耳にすることがあります。学修成果の可視化は、多くの大学でここ数年の宿題になってきました。けれども「誰に見せるための可視化なのか」という問いは、意外と後回しにされがちではないでしょうか。

学修データのダッシュボードは、誰が開いているのか

ラーニングアナリティクスという言葉が広がって10年以上が経ちます。LMS のアクセスログ、課題の提出状況、小テストの得点、授業アンケート。大学の中には、すでに相当量の学修データが蓄積されています。問題はデータの有無よりも、それが誰の手元に、どんな形で届いているかでしょう。

学内で作られるダッシュボードの多くは、運営側の視点で設計されています。学部別の GPA 分布、単位取得率、退学・休学の推移。認証評価や中期計画の資料づくりには欠かせない数字です。一方で、そのデータの「持ち主」である学生本人には、ほとんど何も返っていない、という大学も少なくないように思われます。

海外の研究でも、この点はたびたび指摘されています。2026年に公表された 学生向けダッシュボードに関する研究(Technology, Knowledge and Learning)では、学生がダッシュボードに求めるものと、学習の自己調整を支えるために設計側が想定するものとのあいだに、ずれがあることが論じられています。作れば見てもらえる、というほど単純ではないようです。

教学マネジメントと学修成果の可視化 ― 日本の大学に固有の事情

日本の大学で学修成果の可視化が本格的に語られるようになった契機の一つは、中央教育審議会大学分科会が2020年に取りまとめた「教学マネジメント指針」でしょう。指針は「学修者本位」を掲げ、成績だけでなく学生の成長実感なども含めて、ディプロマ・ポリシーの達成状況を多面的に把握することを求めました。学生自身が根拠をもって自らの学びを説明できること、という視点も示されています。

ところが現場に目を向けると、事情はもう少し込み入っています。学修データは LMS、教務システム、ポートフォリオ、アンケートツールに分散し、つなぎ合わせるには IR 担当者の手作業が欠かせません。年度末に CSV を集め、表計算ソフトで突き合わせ、報告書向けのグラフにする。その繰り返しで手一杯になり、学生に返す画面まではとても手が回らない。担当者の努力が足りないのではなく、仕組みがそういう形をしている、というのが実態ではないでしょうか。

もう一つは、年度制と学期ごとの時間割という日本の大学の暦です。学生にとって意味のある情報は「今週どの課題が残っているか」「この科目で自分はどのあたりにいるか」といった、ごく身近なものです。全学の集計値とは粒度がまったく違います。

標準規格でつなぎ、大学自身が「見え方」を作る

この分散を解く鍵として、標準規格の存在が大きくなっています。1EdTech は LTI に加えて、学習イベントを共通の形式で記録する Caliper Analytics を定めています。Canvas LMS でも Canvas Data 2 によって、データウェアハウスや分析基盤に学修データをまとめて取り出せるようになりました。データを「集める」段階の壁は、以前よりずっと低くなっています。

残るのは、それを誰向けに、どんな画面にするかという設計です。ここは既製品のダッシュボードをそのまま使うより、大学ごとのディプロマ・ポリシーや学生の生活リズムに合わせて作れるほうが自然でしょう。たとえばヨウムの youmu perch. シリーズの一つ perchlenz. は、複数のデータソースを横断して集め、グラフやウィジェットにし、ダッシュボードやフォームとして配布する流れを、教員や運営者が自分たちで組み立てられるよう設計されています。学生はログインすると、自分のカレンダーや時間割、学修成果のグラフ、TODO が並んだ画面を見られます。LTI 1.3 で Canvas の中から起動するため、学生にとっても普段の授業の延長で開ける点が特徴です。

なお、学修データの取り込みには、名簿や履修情報が正しく揃っていることが前提になります。その土台については学務システムとの差分同期を扱った記事でも触れています。

まとめ

学修データのダッシュボードは、運営のための集計画面と、学生が自分の学びを振り返るための画面とでは、求められる粒度も頻度もまったく異なります。教学マネジメント指針が掲げた「学修者本位」を本気で形にするなら、後者にも光を当てる必要があるのではないでしょうか。標準規格によってデータを集める壁は低くなりました。これからは、大学がほしい見え方を大学自身で作れるかどうかが、学修成果の可視化の次の論点になっていく――そんな見方もできそうです。

参考文献

※ Canvas および Canvas LMS は Instructure, Inc. の商標です。youmu perch. シリーズはヨウム株式会社の製品であり、Instructure, Inc. が提供・保証するものではありません。

Picture of 倉持智明

倉持智明

ヨウム株式会社代表取締役

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