LMS 教員ID 名寄せ ― 非常勤・復帰教員の教材をどう引き継ぐか

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LMS 教員ID 名寄せという地味なテーマが、年度初めの情報センターの窓口で話題になることがあります。数年前に非常勤で教えていた先生が復帰し、「以前作った教材が見当たらない」と相談に来る場面です。調べてみると、LMS上には旧IDのアカウントと新IDのアカウントが並んでいる。教材は旧IDの側に残っている、というわけです。

LMS 教員ID 名寄せが問題になる場面

大学のLMSは、学務システム(SIS)から届くユーザ・科目・履修のデータで動いています。学生の履修登録が授業の名簿になり、教員の担当情報が科目の管理者権限になる。この流れは、運用が安定していればほとんど意識されません。

ところが、人の異動が絡むと事情が変わります。契約期間の切れた非常勤講師が、別の年度に再び担当する。学内の別部局から異動してくる。退職後に特任として戻ってくる。学務システム側で新しい職員番号が採番されると、LMSからは「初めて見る人」に見えます。新しいアカウントができ、過去の科目や教材は旧アカウントに紐づいたまま残る。この小さなずれは、1件ずつ見れば些細ですが、毎年積み重なると窓口の対応件数として効いてきます。

もちろん、各大学の担当者は、手作業での付け替えやアカウントの統合で丁寧に対処されているはずです。問題は個々の対応の質ではなく、同じ作業が年度ごとに繰り返される構造のほうにある、という見方もできるのではないでしょうか。

日本の大学に固有の事情

この種のずれは、日本の大学の制度や慣習と無関係ではありません。非常勤講師は科目単位・年度単位で委嘱されることが多く、契約の切れ目でアカウントも一度整理される運用が一般的です。一方で、教材は教員にとって数年がかりで磨いてきた資産であり、「年度が替わったから消える」とは考えにくいものです。

加えて、学務システムの識別子は大学ごとに独自の設計であることが少なくありません。職員番号、教員コード、学内メールアドレスのどれを主キーとするか。旧姓・通称の扱いはどうするか。非常勤用と専任用で番号体系が分かれている場合もあります。LMSの側から見ると、これらはすべて「外から来るユーザ識別子」にすぎず、同一人物かどうかを自動で判断する材料が足りません。

また、情報センターの人員は限られ、年度替わりは履修登録、シラバス締切、システム更新が重なる時期です。名寄せのような「例外対応」に割ける時間は、どうしても後回しになりがちです。個人情報の観点からも、IDの統合は慎重に進める必要があり、担当者の心理的な負荷も小さくありません。なお、名簿データの交換については、1EdTechが定める標準規格OneRosterが、人・科目・履修といった情報を共通のデータモデルで扱う枠組みとして知られています。標準に沿うことで連携の手間が減る一方、大学固有の識別子の事情までを規格が肩代わりしてくれるわけではない点は、押さえておきたいところです。

標準規格と運用の設計で考える

では、どう考えればよいのでしょうか。一つの方向は、「ID は変わりうるもの、人は同じ人」という前提を、連携の設計に最初から織り込むことです。学務システムの識別子を唯一の鍵にせず、同一人物であることを別の台帳で保持し、新旧IDを対応づける。そのうえで、過去の科目や教材へのアクセスを新しいアカウントに引き継ぐ。手順としては単純ですが、これを毎年の手作業ではなく、仕組みとして持てるかどうかが運用負荷の分かれ目になります。

もう一つは、LMSと外部ツールのつなぎ方を標準に寄せることです。外部ツールの起動にはLTI 1.3のような共通規格があり、ツール側が個別のID体系に依存しすぎない構成を取りやすくなります。詳しくはLTI 1.3 でつなぐのページにも整理しています。

こうした考え方を、Canvas LMS を日本の大学で運用する場面に当てはめたものの一つが、ヨウム株式会社のyoumu perch.シリーズの perchadmin. です。SIS のデータを差分で連携しつつ、名寄せ(Identity Master)によって復帰教員が新IDになっても過去教材へのアクセスを復元できるようにする、という位置づけです。差分連携そのものの考え方は、こちらの記事でも触れました。なお、Canvas および Canvas LMS は Instructure, Inc. の商標であり、youmu perch. はヨウム株式会社の製品です。Instructure, Inc. が提供・保証するものではありません。

まとめ

教員ID の名寄せは、LMSの運用のなかでも目立たない領域です。しかし、非常勤講師や復帰教員の教材が引き継がれるかどうかは、授業の質にも教員の信頼にも関わります。ID は変わりうるという前提で連携を設計し、標準規格と組み合わせて「人」を軸に運用を組み立てる。LMS 教員ID 名寄せという切り口は、そのための小さな出発点になるのかもしれません。自学の運用を見直す際の、ひとつの視点として参考になれば幸いです。

参考文献

Picture of 倉持智明

倉持智明

ヨウム株式会社代表取締役

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